ノウフク・マガジン#12

ノウフクの現場から
NEW 2021年11月16日

農の医療的・福祉的活用による新たな農福連携

宮崎県都城市は、全国有数の農業振興地域であり、独自の地域課題が存在します。
高齢農業者から広がる地域の福祉課題は、農業分野に留まらず、医療・介護の領域へと連鎖し、その歪みは複合的な課題となり、顕在化してきました。

私たちは、これらの課題に対し、農業の多面的活用によるソリューションを確立し、その展開により『当事者とその家族の苦痛と苦悩を緩和する』ことを目的としています。

これまでの農福連携の定義を[担い手不足×障がい者雇用]とするならば、私たちの目指す農福連携は、[農の医療的・福祉的活用]と言えるでしょう。
それは、農力を最大限に活用し、地域リソースを再生し、福祉転用することで可能となる新たな農福連携の取り組みです。

農業の新たな機能とその効果により、多くの当事者とその家族、そして生きづらさを抱える方々に寄り添い課題解決を目指してゆきます。

父の急逝、母の認知症からはじまった「農の医療的・福祉的活用」

私の実家は、小さな専業農家でした。
幼い頃から、両親の農業に対するひたむきな姿とその苦労を見て育ちました。

2015年、父が心臓の病で急逝。
母の認知症が急速に進行し、弟のチカラだけでは、農園経営は困難になってしまいます。
こうした状況から、私は介護離職し、東京からのUターン移住を決断しました。

「畑仕事がしたい。」という認知症の母の願いを叶えるため、入居する介護施設に小さな農園を作ったのが、活動の始まりでした。

農作業により[役割][出番]を得た母は、精神の安定を少しずつ取り戻し始めました。
また、車椅子の利用者が、朝夕の除草作業による屈伸運動の効果により、自足歩行が可能となるほど回復するなど、多くの利用者に身体的・精神的な変化が現れたのです。

地域高齢者にとって農業とは、ライフワークそのものであり、日々の喜びであること。
つまり、『生きがい』そのものであることを知らされました。

農作業による認知機能改善のプログラム『農福リハビリ』

「認知症という言葉で隔たりを作り、介護側の都合で高齢者の意欲を否定し、制度で区切る。
『生きがい』を取り上げてしまっているのは、健常者である私たちなのではないか・・・。」

このような思いから、農作業による認知症改善プログラムの実現を目指し、母の介護の傍ら、2年間のデータ収集と福祉課題のヒアリング実施のため、地域を必死に駆け回りました。

2017年、認知症疾患医療センター長である認知症専門の精神科医の賛同を得て、地域発の農福連携協議会を設立医療機関の参画する全国でも希有な農福連携事業体です。

2018年には、軽度の農作業によるリハビリ・プログラム『農福リハビリ』を自ら開発し、精神科医監修の下、臨床での試験運用を実施。
国内でも、はじめて農作業による認知機能低下抑制のエビデンス採取に成功しました。

さらには、『農福リハビリ』から、副次的に生産された農産物による農福連携プロダクトも開発し、新しい農福連携事業モデルの要素をひとつひとつ構築してゆきました。

『日本版ケア・ファーム』と『ケア・ファーム プログラム』とは

現在、この活動を地域から、全国に展開するため『日本版ケア・ファーム』事業の確立に向けて、開発を行っています。

これは、オランダのケア・ファームから着想を得た、農業者を起点とした取り組みです。
農家の古民家を修繕、耕作放棄地・休耕田を再耕し福祉転用することで、安全な農作業によるリハビリ環境を構築し、休眠したリソースに新たな機能と価値を付与します。

そして、これまでの『農福リハビリ』に脳機能学に基づいた最新の認知科学による心理技術を統合し『ケア・ファーム プログラム』へと更新、これにより当事者とその家族のケアを目指すものです。

このプログラムは、精神科医、アグリヒーリングの専門家、そして国内最高峰の研究機関や大学の協力を得て、医学的なエビデンスに沿って、アップデートを行っています。
さらに、農福連携事業としての効果や超高齢化社会における新たな構造モデルとしての検証を立体的に行い、予めシステムとしての脆弱性を回避してゆきます。

「農福連携」とは、農業の多面的活用による『幸福』の創造である

「農福連携」の「福」は、『幸福』の福である。
このように定義すると農福連携は、もっと豊かな発想が生まれてくるのではないでしょうか。

「農福連携」に対する定義について抽象度を上げて考えてみる。
農業の多面的活用で、社会的に弱い立場の方々の役に立てば、それは「農福連携」なのです。
多様な課題解決のために、それぞれの「農福連携」がある、それが正解です。

農作業には、不思議なチカラがあります。
当事者の方々と農作業をすると、笑顔になり、穏やかな雰囲気がその場を包み込む。
とても幸福な瞬間を感じることができます。

私は、このチカラを医療的・福祉的に活用し、全体の幸福を包摂した共生社会のための仕組みとして活かすことは、可能であると経験と成果から確信しています。

父の遺した農業と、母が認知症から与えてくれたヒントから生まれた新たな農福連携事業。
これにより、農業の新しい価値を創造し、課題の解決を通じて共生社会の実現に寄与できることを父と母に感謝するとともに、農業者として、心から誇らしく思います。

投稿者: 岡元一徳

都城三股農福連携協議会 代表理事 / 71年生まれ。宮崎県都城市出身。
先代から継承し兄弟で運営する『おかもと自然薯農園』では、主にマーケティングや商品開発などを担当。"おいしいは、しあわせのはじまり"をコンセプトに、完全無農薬・無肥料栽培にて、自然薯をはじめ米、小麦や露地野菜は固定種・在来種を中心とした野菜づくりを行っている。前職の映画製作やコンテンツプロデュースの経験を活かし、大胆に、次世代の一次産業の在り方を模索中。
• 都城三股農福連携協議会 https://noufuku.org
• Facebook [農福連携ネットワーク]https://www.facebook.com/groups/noufuku
• おかもと自然薯農園 https://okamoto-jinenjyo-farm.com

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