ノウフクマガジン#47

人に合わせるテクノロジーを!【テクノロジー ラボ2022】第1回ワークセッション
ラボレポート
2022年11月2日

人に合わせるテクノロジーを!【テクノロジー ラボ2022】第1回ワークセッション

2022年度ノウフク・ラボ03 テクノロジー 第1回ワークセッションが、9月30日(金)にオンライン開催されました。

ノウフク・ラボは、「異なるものとつながる力!」を合言葉に、社会課題の解決や新たな価値創造を図りながら「地域に暮らすすべての人が豊かで幸せに生きられる」共生社会の実現を目指しています。

2021年度はノウフクの現場にテクノロジーを実際に導入し、どんな効果を得ることができるのか検証する年でした。今年度はラボ全体目標である「ノウフク・ラボの木に果実を実らせる」に向かって、一層具体的な活動をしていく予定です。第1回ワークセッションはそのための第一歩となりますが、平日午前中の開催にもかかわらず、ノウフク現場の方々、行政、一般企業といった様々な分野から19名の研究員のみなさんに参加いただくことができました。昨年度に比べると倍以上の参加者で、ノウフク・ラボの木が確実に育っていることが感じられ、事務局一同、嬉しく思います。

ワークセッションでは、ノウフクの現場ですでにテクノロジーを導入している京丸園株式会社 代表取締役 鈴木厚志さんにプレゼンいただきながら、テクノロジーがノウフクの課題解決に確実に繋がることを理解できました。ディスカッションでも研究員のみなさんから様々な事例やアイデアを紹介いただきましたので、ご報告いたします。

日本初の実証実験からわかったテクノロジーの導入効果

ワークセッション冒頭では、テクノロジーチームのこれまでの取り組みを振り返りました。

2021年度からテクノロジーチームのキャプテンであり、社会福祉法人ゆずりは会 菜の花の小淵久徳さんの施設にて、ノウフクの現場に携わる生産者のみなさんに協力いただく形で、テクノロジーの実証実験を行いました。

具体的にはITベンチャー「クォンタムオペレーション」が開発したウェアラブル端末を生産者の腕に付けてもらい、熱中症予兆と感情解析を目的としたモニタリング調査をするというものです。

日本初の試みでしたが、3ヵ月の調査の結果、現場で作業する障がい者だけでなく、事業所の職員や農家のみなさん含め、ノウフク関係者全員の熱中症予防に活用できることをデータから確認できました。また、研究員がウェアラブル端末の性能や仕組みを学んだことで、GPS機能によって行動を管理したり、生産者の疲労度や集中力を測定したりといったアイデアも出ました。

ところで、テクノロジー導入というと生産性向上ばかり期待される傾向がありますが、テクノロジーチームでは、ノウフク現場における作業者のやりがいや安全性の向上にも役立たせることが重要と考えています。そこで2022年度は、ノウフクの現場におけるテクノロジーの意義や位置づけについて、研究員のみなさんと一緒に追求していきたいと思います。

さらに、ノウフクの現場におけるテクノロジーを体系的にまとめることも予定しています。今回のワークセッションでも事例紹介がありましたが、すでにノウフクの現場で素晴らしいテクノロジーを導入している事業所がある一方、そういった導入事例はあまり知られていないのが現状です。同じ作物を育てている生産者どうしが情報を共有し、ツールを導入すれば生産性や安全性の向上をすぐにでも実現できるにもかかわらず、テクノロジーの存在を知らないために課題を抱えたままになっているかもしれない・・・そういった可能性を踏まえ、テクノロジーチームでは、ノウフク現場で活用可能なツールと用途を調査し、体系化して各種媒体で公開することを2022年度の目標に掲げます。

テクノロジーが人のスキルを上げる:京丸園株式会社

ワークセッション前半では、農林水産祭 経営多角部門天皇杯やノウフク・アワード2021 グランプリ受賞に輝いた京丸園株式会社 代表取締役 鈴木厚志さんにプレゼンしていただきました。

Before / Afterを秒単位で計測し、テクノロジーの導入効果を数値化

京丸園は静岡県浜松市にある農業者で、主に水耕栽培で葉物野菜を生産しています。

この「京丸姫シリーズ」の生産に障がい者が携わっていますが、その方々が日常的にテクノロジーを使いこなし、健常者と同じように働いているとのことでした。

鈴木さんから最初にご紹介いただいたのは、発泡スチロールのトレイを1日1,000枚洗う作業シーンでのテクノロジー導入事例です。

水道の蛇口にホースをつけ、トレイ1枚1枚をスポンジで手洗いするというシンプルに見える作業ですが、鈴木さんはさらに効率を上げるため、トレイ洗い専用の機械を業者と共同開発し、次のように現場に導入しました。

この結果、手洗いの時は1枚洗うのに10秒かかっていたのが、機械を使うと1.08秒まで短縮できたそうです。

さらに鈴木さんは、こういった作業工程を記録し、導入前と後でどのくらい効果があったのか、詳細に数値化されていました。

金額の大きい設備投資となると事業主は慎重にならざるを得ませんが、細かく導入コストを計算し、毎年計上するのに必要な費用を算出することで、金額ベースで導入効果を冷静に把握することができます。鈴木さんはこの資料を説明しながら「ビジネスとしてプラスになるものがあるからテクノロジーを導入する」と言われていましたが、参加した研究員全員がこの言葉に説得力を強く感じた事例紹介でした。

テクノロジーというとハイテクを駆使した高性能機械をイメージしがちですが、いたってシンプルな技術的対策を取るだけで業務の効率化を図ることができる事例もご紹介いただきました。

京丸園ではJGAPも取得しており、職場の整理整頓のために5S活動*を実施していますが、最初の頃は清掃用の掃除道具を次のように置いていたそうです。

*5S活動とは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけのこと。

こういった道具置場の光景はどこにもでもありそうで、一見すると何が問題なのか気付きませんが、ほうきがまとめてぶら下がり、ちりとりも重ねて置かれているため、道具を取り出すタイミングで順番待ちの渋滞ができていたそうです。

この問題を解決するため、鈴木さんは次のように道具置場を改良しました。

ほうき一本一本をフックでぶら下げ、その下にちりとりをペアで置くことで、掃除道具を片手で取ることができるようになりました。また、並列にしたことで渋滞が解消され、待機時間ゼロになったそうです。こういったローテクのちょっとした工夫でも、ノウフクの現場では生産性と安全性の向上に確実につながります。大型機器への設備投資は無理でも、わずかなコストですぐに導入できるテクノロジーから始めてみることも良いですね。

テクノロジーの導入で働ける人が増えた

どのような業種でも、生産性を上げるために従業員スキルの標準化とさらなる向上が求められますが、ノウフクの現場では障がい者一人ひとりの特性を見極め、それを活かす形で仕事を割り振ることから、人材育成の考え方が一般企業と根本的に異なります。

ただ、今回の鈴木さんのプレゼンからわかるように、障がいを持った人でもテクノロジーを使えば自分の力だけで健常者と同じように作業ができるようになります。それは生産者としての成長であり、社内評価や工賃にも反映されるものです。鈴木さんが「人にムチ打つのではなく、そこにテクノロジーを加えることでスキルアップにつながるのではないか」と言われていたのが印象的でしたが、この言葉はノウフクの現場におけるテクノロジーの在り方を言い当てているように感じます。

このような取り組みの結果、「障がい者が働けると高齢者が働けるようになり、女性が働けるようになった」京丸園の組織構成をご提示いただきました。

農作業は体力が必要な仕事ですが、テクノロジーを導入した結果、一般的に無理と思われそうな高齢者や女性でも生産工程に携われるようになり、雇用創出につながったそうです。

京丸園で働いているみなさん

鈴木さんには、2022年度テクノロジーラボのアドバイザーとして参画していただくことになりました。テクノロジーチーム一同、大変心強く感じています。

鈴木さんのプレゼンテーションの様子(画像をクリックすると拡大表示されます)

現場の「困った」を解決する様々なテクノロジー

ワークセッション後半のディスカッションでは、参加いただいた研究員のみなさんからノウフクの現場で実際に導入されているテクノロジーの事例や「実現できるかわからないけれど、あったらいいなぁ」といったアイデアを出してもらい、談論風発とした場になりました。

タイヤを増やして転倒を防ぐ4輪ネコ車

ノウフクの現場では、農作物を運ぶ時など一輪の手押し車、通称「ネコ車」を使う機会があります。ただ、両手でバランスを取りながら運ぶため、腕力がないと転倒して荷物をこぼし、運んでいる人や周囲の事故にもつながります。そういったアンバランスなネコ車を安定させる事例を、研究員の方から紹介してもらいました。

対策は非常にシンプルで、車輪を1輪から4輪に増やすだけです。たったこれだけで現場から怪我がなくなり、みなさんが安心して作業できるようになったそうです。

また、作業する台にもちょっとした工夫をして作業効率を上げた事例も紹介してもらいました。

作業台の天面は、ふつう地面と平行に位置します。でも大きな作業台になると、手元は見えるものの、遠くに置かれた物は取りにくくなり、確認も難しくなります。そこで作業台に傾斜を付けたところ、作業効率があがっただけでなく、全体が見渡せるようになってミスも減ったそうです。

この事例を紹介した研究員の方は、一つ一つ現場を確認しながらちょっとした工夫を見つけて提案するコンサルティングサービスを提供しています。障がい者にとって、健常者向けの道具が必ずしも使いやすいというわけではないので、ノウフク事業者にとって大変ありがたいサービスです。

施設外就労先のトイレ問題を解決するデリバリートイレ

2022年度の統括マネージャーであり、トイレチームリーダーを務めるNPO法人たがやす理事 天野雄一郎さんからもアイデアをもらいました。

ノウフク関係者には、施設外就労先でトイレがなくて困ったという経験のある方が結構います。そういう現場でトイレの心配をしなくて済むよう、スマホで呼ぶと自動運転で圃場の近くに来てくれる「デリバリートイレ」が欲しいとのことでした。

ノウフク現場におけるトイレ問題はすでに様々な現場で表面化していますが、「デリバリートイレ」が実現すれば、ノウフクに限らず、日本中の農家にも役立つテクノロジーになりそうです。

その他にもロボットの遠隔操作やドローン技術、体力や睡眠の可視化など、活発な意見交換ができました。その様子をグラフィックレコーディングに収めましたので、ぜひご覧ください。

ディスカッションで取り上げられたテクノロジー事例(画像をクリックすると拡大表示されます)

テクノロジー図鑑でノウフクの現場にテクノロジーの導入を促す

わずか2時間のワークセッションでしたが、研究員のみなさんからノウフクの現場におけるテクノロジーのアイデアを沢山いただきました。どのアイデアも目からウロコで、ノウフクの現場ですぐにでも活用したくなる事例ばかりでした。

ただ、多くのノウフク事業者はこういったテクノロジーがあることを知らず、様々な課題に直面したままでいる方が少なくないようです。

今回のワークセッションでは、障がいを持った人がテクノロジーの力を借りて自分の能力を拡張し、多様な作業に携われるようになることがわかりました。テクノロジーチームでは、制作予定の「ノウフクテクノロジー図鑑」を通じて、ノウフクに携わる人たちにこういったテクノロジーの存在を知っていただき、テクノロジー導入を促進したいと考えています。

今回プレゼンしていただいた京丸園の事例。もともと職人技だった水耕栽培の定植作業を、オリジナル定植器を使い、現在では障がい者が職人の3倍速で作業しているとのこと。

それと同時に、テクノロジーチームでは、ノウフク現場におけるテクノロジーの可能性と理想的なあり方も探求していきます。

12月には中間発表会を予定していますので、ここでテクノロジーチームの進捗を共有いたします。楽しみにお待ちください。

会員専用ページでは動画を配信中!

農福連携等応援コンソーシアム会員の皆様には、今回のワークセッションの様子を動画でご視聴いただけます。京丸園 鈴木さんの講演は必見です。2022年度のパスワードは、2022年8月19日にコンソーシアム事務局からお送りしたメールをご確認ください。

投稿者: ノウフクWEB編集部

ノウフクの情報を幅広く発信いたします。

ノウフク・マガジン

ノウフク最前線の読みもの&ニュース
View all